孤独がこわいと言う友人
<今週の土曜日に大阪いきます。晩ごはんどう?>
仕事終わりにヘトヘトになりながら、地下鉄の電車を待っている頃だった。大学時代の同じ学科だった友人K君からLINEがきた。
<おっけー>とアヒルのスタンプを返しておいた。
K君は僕と同じように設計の仕事をしている。僕は学部を卒業してそのまま就職したが、彼は大学院へ進学し、難しい計算の研究をしたあと就職をした。
K君もまた、僕と同じように地元の関西を離れて、知らない街で暮らしている。
頼んだ角ハイとウーロン茶がくるまで、おしぼりをたたんだり広げたりしながら話をした。
「休みの日は何してるん?」
『…映画見に行ったり、とかかな』
「あぁわかる。俺は宇都宮いるとき、
自転車借りてとにかく遠くまで行ったりした」
知らない街での過ごし方は、やっぱり誰でも似てきてしまうんだな。
『なんか、休みの日でもあんまり心が休まらない感じというか』
「あぁそれもわかるわ。
ていうか俺はそれで入社一年で転職した」
『俺も転職しようかな』
K君はわざとらしく笑った。笑ってはいたけど、目線は僕をうかがうような感じがした。
角ハイとウーロン茶お待ちです。と店員がやってきた。僕はすぐに角ハイに手を伸ばして飲んだ。少し濃すぎる。K君はウーロン茶を手元に寄せた。黙ったまま、飲まない。
それからK君はもう少し詳しく自分の心境を話した。体や心の体調が優れない、という親しい人が周りに続いていて、今の自分の周りのものが何か消えてしまうのではないかという不安があること、そしてもしそうなってしまった時に、自分にどんな感情がわいてしまうのかわからなくて怖いこと。そういう曖昧な不安が日常的にあるということ。両手で握ったウーロン茶は一向に飲まないまま、K君は話し続けた。出来るだけこの感覚を正確に伝えたいというふうに言葉を選んでいるようだった。
僕はその間角ハイをじっと見ていた。 僕も言葉を選んでいた。
「うん、それもよく、わかる」
曖昧な流すような相槌ではなく、本当に僕がわかる範囲で考えを伝えなくちゃ、と思った。それはK君のためではない。僕自身もそんな悩みにとらわれているからだ。
自分の周りのものが無くなっていくというのは、避けられないものなんだと思う。少なくとも、人は死ぬし、建物は風化して壊れていくのが当然だ。
そのとき僕が何を思うかは正直わからない。だってまだ僕は身近な人がいなくなったり、自分の記憶がつまった空間や街が壊れたことなどないから。
ただ、もし自分が飲みほせない感情なら、しばらく時間をおいておけばいいんじゃないか。そうやって時間でたっぷり希釈していくうちに、ぐっと自然に受け入れられる濃度になって、飲み込めるようになるんじゃないかな。
そう言って僕は氷がとけて薄まった角ハイを一気飲みした。
K君も、うん、なんか、わかると言ってウーロン茶を一口飲んだ。